お腹の症状から病気を推定する

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はじめに

お腹の病気は多く、症状もさまざまですが、これを問診で系統的に尋ねてゆくことで、
問診だけで病気を特定する試みを続けています。
当院で用いる問診表は下記の通りで、この結果に基づいてさらに必要な検査を行うことなどで病気の診断・治療を進めています。

お腹の症状から病気を推定する
-問診表―

1.どのような症状ですか

1) 腹痛、2)腹部膨満感、3)はきけ・嘔吐、4)下痢、5)便秘、6)血便7)食欲不振、8)体重減少、
9)その他(          )

2.いつ頃からですか

1)1日前、 2)数日前、 3)1月前、 4)3月前、 5)慢性で繰返す

3.お腹のどの部位で具合がわるいですか(複数回答可)

1) おへそより上、 2)おへそより下、 3)左側、 4)右側、 5)真ん中

4.腹痛と食事の関係で、痛みは主に

1)空腹時、 2)食後、 3)食事と無関係

5.背中や腰に痛みを伴うことは、

1)なし、 2)あり

6.既往歴で、下記の疾患があれば

1)肝臓疾患、 2)膵臓疾患、 3)胃・十二指腸潰瘍、 4)腎臓疾患、5)高血圧、 
6)循環器疾患(心疾患、脳梗塞など)、 7)うつ

7.今服用中のくすりは

1)なし、 2)あり

8.服用ありの場合は、どんなくすりをのんでいますか?

1)胃腸くすり、 2)鎮痛剤、 3)血圧を下げるくすり、 4)糖尿くすり、5)血をさらさらにするくすり、 
6)睡眠剤、 7)その他(        )

9.日頃の生活習慣で、お酒は

1)飲まない、 2)飲む( ①少量、②2合以上 )

10.女性へ、妊娠・授乳は

1)なし、 2)あり

11. 日頃の健康状態は、

1)とくに問題なし、 2)過労ぎみ、 3)睡眠不足、 4)心配ごとがある、4)ストレスを感じている、 
5)その他(             ) 

お腹の症状から病気を推測する

1. 症状が急性(数日以内)で出現した場合

1)急性(感染性)胃腸炎が最も多い。腹痛よりもはきけ・嘔吐、下痢症状(詳細は「はきけ・おう吐症の概要」を参照)が主体。点滴主体の治療で治癒。
2)急性虫垂炎 右下腹部痛とはきけが主体で、下痢はない。触診すると、右下腹部に
典型的なMcBurney圧痛点がある。治療は手術が原則であるが、抗菌剤による保存的治療でも改善する例が増加している。近年は疾患自体が減少傾向にある。
3)婦人科疾患による腹痛 触診による圧痛点は虫垂炎より骨盤側にあるので、鑑別可能。
4)胆石発作・急性胆嚢炎
多産の女性に多い。妊娠中の胆汁うっ滞が原因と考えられる。胆のうは腹部より
むしろ背側に存在するために、背部痛を伴い、食後に増悪するのが特徴である。
超音波検査を行うと、胆石の確認、胆のう腫大、胆のう壁肥厚などが明らかになる。
5)急性膵炎
飲酒と深い関係があり、背部痛を伴う。食後とくに脂っこいものを食べたのちに増悪する。家族性高脂血症の家系にも発生することがある。腹部は膨満し、血液検査でアミラーゼ値が上昇、超音波検査では膵臓の腫脹と、腹水貯留を伴うことが多い。
6)尿管結石症
腹痛とともに、腰痛を伴う。尿検査を行うと、潜血反応が陽性となって診断できる。

2. 腹痛などの症状が1か月以上続く場合は

先ず、生活環境(暴飲暴食、ストレス、睡眠不足など)の状況把握が重要です。
痛みの部位を知ることは、原因臓器を推定する目安となります。
上腹部正中であれば胃の病気を、右寄りならば肝胆道疾患や大腸疾患を疑います。
下腹部の痛みは大腸憩室炎や大腸がんや婦人科疾患など、腰痛を伴う場合は泌尿器疾患も考慮します。これらの鑑別には、お腹の触診が有用です。
消化器臓器は食物が消化されて通過する通路ゆえに、腹痛と食事摂取の間には密接な関係があります。空腹時の痛みは胃・十二指腸潰瘍(胃カメラ検査の十二指腸潰瘍の項目参照)です。一方、食後に痛みが強くなるのは胆石や膵疾患です。
はきけ・おう吐が1か月以上続く状態は、腸管に何らかの通過障害(腹部手術後の癒着など)か、それとも機能性デイスペプシアなどの機能性疾患です。
女性は若年でも便秘がちが多く、腹部膨満などの原因となります。適切に下剤などの投与で、症状の改善が得られることをしばしば経験します。
下痢が長引く場合は、何らかの腸疾患を疑って精密検査を受けることが望ましい。
さらに粘血便の有無などを聴取し、潰瘍性大腸炎などの大腸疾患を疑って、ときに精査する必要があります。
近年、若年者で増えるのが機能性ディスペプシア(胃部の痛み・胃もたれ)や過敏性腸症候群(腹痛、下痢ないし便秘)などの自律神経性胃腸疾患です。ストレスやうつ症状に合併し、心身医学的アプローチが必要な疾患です。
女性では、婦人科疾患を常に念頭に入れ、妊娠や授乳の有無などの問診は必須。

2)40歳中年以降になると

若年者同様に自律神経性胃腸疾患や女性の便秘患者は増えていますが、若年者と異なるのは悪性疾患を考慮に入れたアプローチが必要になることです。
既往歴、服薬歴、飲酒・喫煙歴はもとより、職場での過去の検診データなども参考になります。
はきけ・嘔吐や腹部膨満感は単なる胃腸炎のみでなく、肝機能障害や膵炎にも伴う症状です。
腹痛は、胃・十二指腸潰瘍が空腹時に対して、胆石や膵疾患などは食後の痛みが特徴です。
貧血や体重減少が認められれば、医師の指示に従って胃・大腸の内視鏡検査や
腹部エコー検査を受けて、悪性疾患の有無を精査するべきです。
便秘は、単純な便秘が最も多いが、高齢者になると肛門機能障害による排便障害が増えるので必ず肛門内に指を挿入して直腸内に便が多量に貯留していないかをチェックするようにしています。
肛門出血(血便)があれば、出血の原因が肛門由来か腸由来かの鑑別が問題となるが、痔など肛門疾患由来の出血は“きれいな鮮血”であるのに対して、腸由来の
では赤黒いのが鑑別点です。また、腹痛や下痢などを伴う出血は腸由来と考えるべきです。

3. 抗凝固剤を服用中の下血

突然の下血で受診する場合が多く、腹痛などの随伴症状はなく、大腸内視鏡で検査しても出血源はほとんどの場合同定できないのが特徴です。

4.“はきけ”が主訴の場合

急性であれば、感染性胃腸炎が最も多く、下痢も伴います。
1か月以上続いている場合
〇 飲酒の有無を確認し、肝障害の精査が必要です
〇 心因性が原因のこともあるので、ストレス、過労、睡眠不足などの問診が必要です

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